村の景色
なだらかな山並みが幾重にも折り重なって遠くまで続いている。そんな山道の先にティン族の村があった。
一見すると他のタイ族の村とよく似ていて、高床式の家が並ぶ。ただし、家の土台の柱は一抱えもあるような太い木材を使っている。ガイド氏によると、この木(名前は失念した)はチークと同じくらい高価なもので、今では伐採禁止になっているそうだ。村人は、トウモロコシを栽培したり、竹ひごでニワトリのかごを編んだりして、生計を立てている、という。
村はずれにこぎれいなキリスト教の教会があった。キリスト教徒もいるが、アニミズム信仰も多いそうだ。
ティン族の家
家を支える大きな柱
こぎれいな教会
上記のティン族の村に隣り合ってヤオ族の村があった。家は、タイ族や先ほどのティン族と違い、平屋で土間がある。
中国から200年ほど前以降、移動してきたため、漢族文化の影響を強く受けている。
年末の12月31日に訪れたので、ちょうど新年を迎える儀式の準備を見ることができた。炭が燻された室内には祭壇が設けられ、祭壇には豚の頭が供えられ、対聯(たいれん。赤い紙におめでたい文を書いたもの)が飾られていた。家の造りといい、中国の農村とよく似ている。さらに驚いたのは、中国語(北京語)を話せる人がいた、ということだ。たまたま対聯に書かれてあった「新年發財」を日本語で読んでいたら、それを聞いたおじさんが中国語で発音してくれた。「新年」は中国語でも「シンニェン」と発音するので、何を読んでいたかわかったのだろう。ガイド氏によると、ヤオ族がみんな中国語を話すわけではないが、話せる人もいるということだ。
新年を迎える儀式
祭壇
ヤオ族の家
2列に並んでまり投げ
女の子の衣装に注目!
今回は、モン族の村を3つ訪ねることができた。実は旅行会社でツアーを申し込む時、ちょうどモン族の正月(この年は、12月27日-31日。毎年異なる)だからラッキーだ、と言われていた。ガイド氏もモンの正月を見せるため、たくさんのモン族の村をまわってくれたようだ。
山を分け入っていく。雨期だとぬかるんで車は通れそうもないラテライトの道を行ったところに、ようやく1つめの村があった。村の広場に行くと、村人が大勢集まっていた。女性はみな黒、緑、ピンク色などを基調とした鮮やかな民族衣装を着ている。とても美しい。広場の真ん中では、着飾った若い女性や少女、少年たちが2列に並んで、テニスボールほどの大きさのまりを投げ合っている。まり投げはモン族の正月の行事だという。それを大人たちが眺めている。広場には出店もあって、華やいだ雰囲気だった。
モンの家(2つめの村)
すぐ隣が2つめの村だった。民族衣装を着けた女性もいたが、正月ももう終わりという雰囲気だった。この旅行会社のツアーで宿泊に使う村だそうで、竹製のバンガローも見せてもらった。管理人として紹介された女性がなかなかの美人だった。ただし既婚で、夫と兄と一緒に管理しているという。夫と兄はどっかへ遊びに出かけてしまっていた。
3つめの村は、かなり山を下りた辺り、舗装道路が通る大きな村で、立派な学校があった。校庭にはステージが設けられ、生バンド演奏付きの歌謡ショーが行われていた。立派な照明や音響の設備があり、ビデオカメラを回す人もいた。ステージ前は、民族衣装を着た若者で賑わっていた。きっと友人か知り合いが出演しているのだろう。歌手にレイを渡す人もいた。
驚いたのは、ケータイで写真を撮っている女の子、茶髪ロン毛でバイクに二ケツしている男の子がいたことだ。タイの普通の若者と全く区別がつかない。当たり前かもしれないが、山岳民族といってもいろいろだ。
立派な学校のある村(3つめの村)
校庭の仮設ステージ
レイを首に歌う女の子
村のメインロード
右手にブロックの家
かつて接触することさえ困難で、幻の狩猟民族ともされたムラブリ族の村は、意外にも立派な舗装道路のすぐ脇にあった。ガイド氏によると、この村には30-40軒の家に100人ほどが住んでいるという。森林伐採や開発などで森での生活はだんだん厳しくなり、10年ほど前から王室プロジェクトとして、定住化が進められた。もう森で暮らしているムラブリ族はいないらしい。
定住化によって彼らの生活は大きく変化した。バナナの葉にかわって、トタン屋根の家に住む。壁は竹製だが、コンクリートブロックで組まれた建築中の家もあった。後述するおじさん以外、みな普通の洋服を身につけている。子どもたちはみなタイ語を話す。村の教習所で教えているという。
そんな中、ガイド氏が案内してくれたおじさんは、まだ伝統的な暮らしを残しているようだ。あるいは観光客に見せているのかもしれない。おじさんはふんどしを付けているだけ、年齢はわからないそうだ。(おじさんは北タイ語を話した。)森にいた時はイモを掘って食べていたが、獲物になる動物はすっかり減ってしまったそうである。ガイド氏から豚の脂身をもらうと、小刀で切って水と一緒に竹筒に入れ、バナナの葉を詰めてふたをして薪の火にかける。数分後、蒸し上がると竹を割って、小刀で切り分けながら食べる。これを食べると体が温まると言う。
豚肉を調理するおじさん
おじさんの家(外観)
おじさんの家(内部)
この村には次々と観光客がやって来ていた。タイ人の10人ほどのグループが子どもたちにお菓子を配り始めると、たちまち子どもたちが集まってきて、目を輝かせて手を差し出す。この光景を見て心配になった。彼らは定住したものの、農業をしているふうでもないし、自立した生活ができているのか。観光客からの「おみやげ」や、政府等の援助に頼る暮らしは、彼らにとって果たしてよいことなのか。難しい問題ではある。